現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスですが、ミャンマーヤンゴン市に滞在してミャンマー働楽の業務を対応している関係でミャンマーの感染状況は非常に気になっています。そこで今回はミャンマーでの感染状況及び対策の現状について私見を交えながら、ご紹介します。
ミャンマーでの最初の新型コロナウイルス対応は1月31日、中国から観光目的で入国した方が、新型コロナウイルスの疑いがあるとして、ヤンゴン市内の病院に隔離され治療がおこなわれました。なお、この方は新型コロナウイルスには感染していませんでした。
そもそもミャンマーは中国とは広範囲に渡り国境を接していることから、当初より新型コロナ問題を重く捉え、中国人の入国を制限する処置をとると同時に、1月4日には入国者に対する検疫の強化に乗り出し、入国時の健康状態の申請書の提出や、風邪の症状のある入国者に対する検査の実施を始めていたようです。
以下はミャンマーでの新型コロナウイルス感染対策の動き並びに関連情報です。
2月23日:新型コロナウイルスに関する注意喚起
2月28日:新型コロナウイルスを法定感染症に認定する通達
3月11日:WHOによるパンデミック宣言
3月13日:アウンサンスーチー国家最高顧問を委員長とする「新型コロナ感染症対策本部」を組織すると共に、4月30日までの間の集会の禁止、水祭りの開催の禁止を通達
3月15日:中国・韓国・欧米の感染国からの入国禁止及びミャンマー人を含むその他の国からの入国者の14日間の隔離を決定
3月16日:すべての教育機関の活動停止
3月22日:不要不急の外出制限
3月23日:アメリカ及びイギリスから帰国した2名のミャンマー人が新型コロナウイルスに感染していることが判明(ミャンマーでの初めての感染者)
3月24日:ビーチの閉鎖
3月29日:ミャンマー入国VISAの発給停止
3月30日:海外から航空便の着陸禁止
ミャンマー政府の早い段階でのコロナに対する水際対策及び感染防止対策により感染は阻止されてきましたが、3月23日になって米国及び英国から帰国してきたミャンマー人の中に初めて感染者が現れました。この日以降ミャンマーの保健・スポーツ省は感染者並びに濃厚接触者の追跡と管理を徹底すると同時に蔓延を防ぐための様々な対策を打ち出したことは上記の通りです。
更に保健・スポーツ省の下部機関が取った対策は極めて精緻でした。街中の道路及びタクシーの車内の隅々までの消毒液の散布は勿論のこと、住民からの通報をベースに感染の疑わしい人物の割り出しと検査を実施し、住民は怪しげな咳が聞こえると、保健局に通報を入れ、保健局の担当者はすぐさまが疑わしい人物の住居に踏み込み、体温測定を始め感染検査を行った上で、一定期間の隔離を行いました。症状が出た本人が希望してもPCR検査をして貰えない日本とは大きな違いです。検査の結果陽性となった人は感染者専用の病院で治療を受けると同時にIDナンバーが振られ、濃厚接触者情報の収集や、追跡が実施され、こうした情報は保健・スポーツ省のFacebookページで公開され誰もが見ることが出来るようになっています。こうした徹底した管理によって、感染の広がりは最小限に食い止められ、3月23日から4月9日迄の18日間で発生した感染者総数は23人で、1日当たりの平均感染者数1.3人弱でした。またその殆どは海外からの帰国者及び入国者であり、クラスターの発生も、院内感染をした看護師の1組の家族に留まっていました。
また、4月1日にはアウンサンスーチー新型コロナ感染症対策委員長が手製のマスクを着けて国民に向かって「自宅に留まってコロナの脅威に落ち着いて立ち向かおう!」とFacebookを通じて呼びかけたメッセージには説得力があったようです。多くの国民からは「15年間自宅軟禁を強いられた委員長と比べたら、コロナでの自粛など、たいしたことではない。」との反応があり、国民の心を一つに纏める上で、アウンサンスーチー国家最高顧問の対策委員長への起用は最善の選択だったようです。
新型コロナ感染症対策委員長
車の途絶えたピーロード
営業中止のレストラン
然し、こうした状況下の4月12日になって突然ヤンゴン市内で巨大クラスターが発生し、大きな衝撃を与えました。
キリスト教会が大規模集会禁止の通達を無視し、4月6日に教会で凡そ100人規模の信者を集めた集会を開催したのです。その集会の参加者の中に3月末にシンガポールから帰国し、4月になってコロナの症状が出ていた32歳の男性が無理を押して参加したため、新たな新型コロナ感染者を32人も発生させてしまいました。ヤンゴン管区政府は怒り心頭で、集会を計画した4人の牧師を告訴するに至っており、退院と同時に逮捕されることになったようです。
その他、中東から帰国した息子を空港に出迎えた母親が感染し、具合が悪くなって医師の診察を受けた際、海外からの帰国者との接触の事実をひた隠しし、ヤンゴン市内で多くの人と接触した挙句、重篤患者となって死亡してしまったというケースも発生しました。こうした少数の不注意な行動によって、感染者数は4月19日には100人を突破し、更に4月末には150人を突破する結果となっています。なお、第1号の感染者から第74号までの感染者については、年齢、性別をはじめ出身地などの個人情報のみに留まらず、トレースされた詳細な行動記録までもが公開されています。理由は国民に、自分がこれらの人物の濃厚接触者となっていないかどうかを判断するための情報として提供しているものと思われます。
キリスト教 教会でのクラスター
ミャンマー全体のクラスター一覧
これらいくつかのクラスターの発生が引き金になったかどうかは定かではありませんが、4月16日に中国軍の医療専門家チームがヤンゴン空港に降り立ちました。目的は新型コロナに関する感染抑制やウイルス検査、医療ケア等に関する指導です。19日間の滞在期間中に座学や技能研修、資料の共有などさまざまな方法で、中国の新型コロナ対策の経験を全面的かつ体系的に伝え、最終的にはマニュアルを共同で作成し、完成させたようです。政治的なバックグラウンドはともかく、感染の拡大の阻止に向けて何とかしなければならない状況に置かれていたミャンマー政府にとって、中国からの医療専門家チームの支援は非常に意義ある活動だったと言えるでしょう。4月14日には1日当たりの新規感染者数が22人に達していましたが、医療専門家チームの滞在期間中における新規感染者の数は目に見えて減少し、5月4日に帰国するまでの最後の一週間の間の新規感染者数は15人に留まりました。
中国軍医療専門家チームの来緬
中国軍医療専門家チーム
ミャンマー政府は新規感染者の数の落ち着き、並びに回復者の着実な増加、更には死者が6人に留まっている現状に自信を深めたようで、いくつかの規制の緩和に乗り出しています。勿論外出の自粛が緩和されたエリアはまだ限定されており、ヤンゴン市民の足であり通常、通勤時は満員のバスの乗客数も24人に制限されたままです。学校の再開は新学期が始まる6月とも言われていましたが、7月1日からのようです。民間航空機の乗り入れは6月には再会するようですが、入国者の隔離期間3週間は継続されるようです。何れにしても、感染者の数が一定数迄減少し、新規の感染者が一定期間発生しないと言った条件をクリアできるまでは慎重な対策は今後も継続されるものと思われます。
最後に、5月のヤンゴンは暑気のただ中、最高気温が40度近くまで上がる灼熱の気候となっていますが、新型コロナウイルスが存在しなかった昨年までと同様、何事もなかったかの如く、この暑さを満喫する鮮やかな花が人影のまばらな街角のあちこちで咲き乱れているのが印象的です。
ブーゲンビリア
ゴールデンシャワー
セインパン
2020年5月29日(金)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫