ミャンマー国立交響楽団演奏会

 今年は日緬外交関係樹立60周年に当たることから、年初より様々な記念イベントが開催されているが、国立交響楽団の演奏会もそうした記念イベントの1つである。ミャンマーに交響楽団があることすら知らなかった程のミャンマー文化の初心者であることに後ろめたさを感じつつも、2001年の結成以来13年の歴史を誇っているので、かなりのレベルの演奏が聴けるだろうと期待した。入場料がフリーという追い風が吹いていたこともあり、仕事を早々に切り上げて、ランマドー地区にある国立劇場に向かった。開演30分前の夕方6時、とっぷり日が暮れ、明かりが灯った国立劇場には多くの聴衆が三々五々集まりつつあった。

<国立劇場の正面>

<プログラム>

 プログラム構成は日本とは趣を異にし、第1部がクラシックで、モーツァルト(オペラ「フィガロの結婚」序曲)、ベートーベン(交響曲第1番)、ショパン(ピアノ協奏曲第1番)と、おなじみの曲。第2部はハリウッドの映画音楽で、今年話題になった「雪とアナの女王」のテーマ曲等、そして第3部はアジア各国のフォークソングのメドレー等と多彩なプログラムで、国立交響楽団が一部の音楽エリートのための活動のみではなく、民衆にとって身近な存在であることを訴えるかのようなプログラム構成であった。
 指揮者は山本直純氏のご子息の祐ノ介さん、ピアノは奥様の小山京子さんで、ボランティアとしてミャンマー国立交響楽団を指導されている。山本直純氏はかつて中井貴一が水島上等兵役を演じた1985年版の映画「ビルマの竪琴」の音楽監督を務めた。そんな縁から祐ノ介さんもミャンマーでの活動を始められたようである。小柄でショートヘア、黒縁のメガネをかけ、壇上でのひょうきんな仕草はドラえもんの親友のびた君を彷彿とさせる。日本では指揮者が舞台でマイクを手にすることは先ず考えられないが、舞台の袖から足早に中央に現れるや、いきなりマイクを持ち、易しい英語で、演奏する曲目を紹介し、更に「交響曲は4つの楽章から構成されているので、楽章の切れ目では拍手をしないで欲しい。」と聴衆に注文をつけたり、ピアノ協奏曲は1楽章だけしか演奏しないけど、15分もかかるから我慢して聞いて欲しい。」と前置きした上で、演奏を始めた。楽団員の音楽面での技術指導のみでなく、聴衆の音楽の聴く際のマナー教育にも心配りをしなければならず、ミャンマーでの活動は目に見えない苦労があるのだろうと感じた次第である。
 演奏が始まると、案の定、各楽章が終わる度に一斉に拍手が鳴った。途端に祐ノ介さんは、「あれだけお願いしたのに・・・止めて頂戴。」といった表情で客席の方を振り返った。英語を理解できない人だって沢山いるのだから仕方ないことかもしれない。

<演奏の前に解説をする指揮者>

<ご夫妻の共演でショパンを>

 プログラムが第2部に移ると指揮者の祐ノ介さんも黒のスーツから一転派手な真紅のスーツに着替えて笑顔で登場し、聴衆も俄かに明るい雰囲気に変わった。そして「フローズンを演奏します。」と紹介すると、「知ってる曲だ!」「待ってました!」と言わんばかりの大きな拍手が鳴り響いた。どうやらアナ雪はヤンゴンでも評判になったおなじみの曲のようだ。客席は殆ど満席の状況であり、子供を伴った日本人の母親達の姿も多くみられ、日緬友好の役割は充分果たせていることを感じたが、しかしヤンゴンの街ではおなじみの尼僧の姿は見当たらなかった。上座仏教では音楽演奏が御法度になっていることが原因しているかもしれない。その代りと言う訳でもないが、若い妙齢のミャンマー人女性が浴衣姿で舞台に登場し、本日の演奏会に関わる様々なことを紹介した。

<浴衣姿で登場した解説員>

<ほぼ満席に近い観客席>

 オーケストラ演奏の最大の魅力は、なんといっても劇場一杯に鳴り響く様々な楽器の重なり合う音色の響きであり、とりわけ管の色彩豊かで華やかな響きが曲全体の魅力を引き出す重要な役割を果たすのだが、肝心の管の音程が不安定だったことから、心の奥に感動を呼び覚ますまでには至らなかったのは多少残念であった。然し、日本を代表するオーケストラだって、かつてはそんな時代もあったのだから、文句は言えない。しかも今回は外国からの助っ人演奏家が1人も含まれていないと言うから、立派なものだ。国立劇場の音響効果も十分とは言えず、音の響きが発散する傾向にあったこともオーケストラの団員には気の毒なことと言えよう。
 第3部は更に砕けて、フォークソングとなった。先ずはミャンマーで踊りを交えて歌う「Yaun Pae Sue」というミャンマー人なら知らいない人はいないほどのおなじみの曲から始まった。この頃には舞台と聴衆との間に一体感が生まれ、自然に手拍子がこぼれたりした。そしてアジア各国のフォークソングのメドレーの最後の曲に入ると、大歓声が沸き起こった。紛れもなくミャンマー人ならだれでも口ずさんだことにあるフォークソングだったのだろう。再び手拍子が会場いっぱいにこだまし、オーケストラと聴衆が1つになった一瞬である。当然の如く始まったアンコールはクリスマスソングになり、団員はサンタの帽子を被って演奏した。会場には割れんばかりの拍手が溢れ、最高潮の雰囲気の中で演奏会は終了した。そして締めくくりは本演奏会を主催した関連組織のお偉方が会場に勢ぞろいし、記念撮影で閉幕となった。樋口大使も満足された表情で舞台の正面に立ってかめらのフラッシュを浴びておられた。
久々の音楽が齎した幸福感を味わいながら会場を後にした。

<アンコールはクリスマスソング>

<樋口大使もお出まし>


2014年12月7日(日)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫