ヤンゴンは長かった雨期に別れを告げ待望の乾季に入った。日中は相変わらず強い日差しが照り付けるが、湿度も下がり、気温も次第に下がって来て、朝夕はすっかり凌ぎやすくなった。日本では梅雨が明け真夏の太陽が照り付け始めると、男性は傘を手放し、女性は雨傘から日傘に切替えて外出することになるが、ミャンマーの人達にとっては雨傘と日傘の区別はなく、男女共に、常に傘を持って出歩くのが一般のようである。と言うのも雨期には1日中雨が降り続く訳ではなく、雨が上がれば厳しい太陽の日差しが降り注ぐため、雨にも濡れず、且つ強い日差しも避けられる晴雨兼用の傘が生活必需品となっている。従って、日本ではすっかりおなじみのビニール製の透明な傘はミャンマーでは通用しない。全て布製や化学繊維製の色とりどりの傘の花が巷を華やかに飾る。
ところで、ミャンマーでは傘が雨除けや日除けの目的だけで使われている訳ではないことに気付いたのは最近の事ではない。プールに行った帰りにインヤー湖のほとりを散歩したり、日本企業の交流会に参加した際、会場となっているレストランのあるカンドージ湖を散策することがあるが、こうした人々の憩いの場となっている公園はいつも多くのカップルで賑わっている。湖畔のベンチは殆どと言っていい程、カップルによって占有されているが、やたらと傘の花が目につくのである。
最近の日本では公園のベンチと言えば家族連れやお年寄りの休憩の場となっているようだが、昔はカップルのための指定席となっていたように記憶している。三々五々集まって来るカップルがベンチに座る際、自分達にとって最も居心地の良いと思う場所に席を決め訳であるが、巻尺や物差しを持参している訳でもなく、お互いが他のカップルと話し合って決めた訳でもない筈なのに、カップル同士の間隔が自然に等間隔になるから不思議である。鴨川の土手は現在でもカップルの指定席となっており、「等間隔の法則」で有名である。
カップルの数が増加するに従って、彼らの座る位置が相互に狭まってくる訳だが、その際彼らの隣のカップルとの間隔は常に一定に保たれるという法則である。その法則はミャンマーでも当てはまるようで、まるで指定席でもあるかの如く等間隔に並んだカップルの姿は壮観である。ところが日本と根本的に異なっているのが傘の存在なのだ。
日本では傘をさしてベンチや芝生に座るカップルを見かけることはほとんどない。春や秋のさわやかな季節になると多くのカップルが屋外でのデートを楽しむが、明るい昼間にはベンチや芝生に行儀よく並んで座り、おしゃべりを楽しむが、日が暮れて闇が2人を覆い隠すようになると、どちらからともなく大胆な行動をとるようになるのが自然の成り行きのようである。尤も最近は若者が減ってきたせいか、あるいはラブホの恩恵を受けているせいか、余りそういった光景は以前ほどは見られなくなったとも聞く。
一方ミャンマーでは昼間から多くのカップルがいつまでも湖畔に座り込んで時を過ごす。そのカップルが3つのパターンに類型化されていることに気付いた。
ミャンマーでは特に母親の娘に対する躾教育が非常に厳格で、髪型、ファッション、外出する際は、誰とどこに行くのか、何時に帰るのか等など、娘の行動に介入し、こと細かく問い質すようである。勿論門限もあり、厳守しなければならない。そして娘達が母親のいいつけに素直に従っている様子は、彼女たちの日常会話の端々から伺える。当然異性との交際も簡単にはいかない。必ず、両親の事前の許可が必要のようである。親の許可を得た上で、プラトニックな交際から始め、やがて、結婚を前提とした真面目な交際へと進展してゆくならいであるらしい。その進展のプロセスが傘の活用方法に反映されているのではなかろうか?つまり初期段階の交際では手も握らず、行儀よく並んで座り、ひたすらコミュニケーションを重ね、お互いを理解し合う。親の許しを得た上でのデートであるから世間に対してもオープンなのである。この段階の彼らにとって傘は不要である。木陰に佇みしきりにおしゃべりをしているのが交際の初期段階に入ったばかりのカップルである。
そこから一歩前進すると手を繋いで湖畔までたどり着き、座る際には肩を組み、雰囲気次第ではキスにまで発展する。その際に重要な役割を果たすのが傘である。傘をさすことで、周囲の好奇な眼差しから逃れ、安心して2人だけの世界を作り出すことができるのである。肩を組みキスをする行為は1本の傘で簡単に隠すことが出来る。この一本の傘をさして座っているカップルの数が最も多い。ベンチに座るカップル、芝生に座るカップル等様々である。
しかし、更にもう一歩先に進んで、芝生の上で横たわって抱きあう段階に達すると、とても1本の傘では覆い隠せなくなる。そこで2本の傘を並べてさすことで、小さな隠れ家を作り上げるようになる。ここまで来ると、いよいよ結婚が近いことを示唆する証である。2本の傘をさして2人だけの世界に没頭している光景を写真に収めるだけの勇気がなかったので、その姿については読者の皆さんの想像にお任せしたい。南国だけあって、ミャンマーの若者達は日本の若者以上に大胆なのかも知れない。
2014年11月23日(日)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫