1.腹を壊す
海外駐在員が常に気を付けていなければならないことの1つが健康の維持である。幸いなことに、これまでの海外出張や海外駐在で一度も医者の世話になったことはない。フィリピンでは約4年間に渡り、若手日本人のグローバル人材育成事業に取り組み、約300名の日本人と共にマニラで生活を行った。彼らが現地に滞在し研修受講する間、現地で生活の面倒を見たり研修指導を行ったりしてきた。1回の研修でやって来る15人前後の日本人は、滞在期間中に最低でも10人程が何らかの病に侵され、病院に連れて行ったものだ。酷い場合は集団で食中毒症状を発症し、ほとんど全員が医者の処方を受けたグループもあった。そんな中にあっても私は一度も医者にかかったことはなく、健康な身体に産んでくれた両親に感謝の日々であった。
ミャンマーに来てからも、これはと言った病には侵されたことはなく、内心安心しきっていたことは否めない。ところが、9月のある日、日本語研修生の1人が教室に氷の詰まったバケツの中に保存されている大量のアイスクリームを持ち込んできたのである。2人の友人と共にタクシーで運び、教室のある7階までは3人が代わる代わる運び上げたとのこと。その努力には頭の下がる思いであった。ミャンマーでは誕生日には本人が周囲の皆さんにアイスクリームやケーキ等を振る舞って、誕生を祝って貰う風習があり、彼女は30人分のアイスクリームをバケツ毎購入して持ち込んだ訳である。教室に集まってきた人々は大喜びで、アイスクリームをご馳走になった。勿論私もその例外ではない。勧められるままにカップにたっぷり入ったピンクのアイスクリームを美味しく頂いた。
その日の夜中である。突然目が覚め、トイレに駆け込んだ。かなり激しい下痢の症状に襲われたのだ。とっさにピンと来た。「原因は昼間に食べたアイスクリームに違いない!」と言うのも、アジアのローカルアイスクリームは材料に使う水が悪く、日本人のお腹はひとたまりもない。と言うのは常識になっていたからだ。
下痢の症状はかなりひどく、2日を経ても一向に落ち着く気配が見えない。食べたものは固まることなくすぐ小便のような液状で体の外に出ていく。常備薬の正露丸を服用していたが、それすら効果が現れない程の酷さであった。ついに3日目の朝、意を決して手作りのヨーグルトを試してみた。ヨーグルトはどちらかと言えば、便秘の解消に効果があると言うことで、フィリピンでも便秘で悩む女性の日本人研修生に振舞った経験があったので、下痢には逆効果だろうと、食べるのを控えていたのだ。ところが、症状に劇的な変化が起きたのだ。トイレに駆け込む回数がみるみる減少し、午後にはすっかり落ち着いた。そして夜には正常な排泄物がでてきたのである。ヨーグルト恐るべしである。
腹の調子が良くなると、気持ちにもゆとりが出てくるもので、下痢の原因は本当にアイスクリームだったのだろうか? あの日に同じようにアイスクリームを食べた他の連中は腹を壊さなかったのだろうか?等など種々の疑問が浮かんできて、改めて腹を壊した真の原因を追及したくなった。幸い、冷凍庫には当日余ったアイスクリームが保存されていた。そこで、再び食後のデザートとして例のアイスクリームに手を付けた。言っておくが、私が人一倍、食い意地の張った人間だと言うことではなく、あくまで下痢の原因追及が目的である。翌朝の腹の具合から、アイスクリームが犯人であったことは立証された。最初の時ほどではなかったが、再び下痢に襲われたのである。然し今回は心に安心感があった。鬼に金棒の自家製ヨーグルトが我が身を守ってくれるという安心感である。その日の午後には、何事もなかったように正常な腹具合に戻ったのである。それ以降手作りヨーグルトには特別の思いを寄せ、愛情をこめて手作りヨーグルトの制作に情熱を注いでいる。
この話を友人に報告したところ、回復したのは、怪しげなヨーグルトの力によるものではなく、私自身の持っているアジアの菌に対する抵抗力が増したのだと断言された。アジアの菌への抵抗力が増したのなら、2回目に食べたアイスクリームで下痢に罹ることはなかった筈なのだが、ミャンマーのヨーグルトに対し懐疑的な目を向ける日本人にとっては、ヨーグルトが身体に効くと言う解釈は信じがたい思い込みとしか理解できないのであろう。まあ自分だけでも信じて生きていこう。
2.風邪を引く
情けない話だが、鼻風邪を引いてしまったようである。これについても真の原因を究明して再発防止に努める必要があるが、何はともあれ、先ず体調を元に戻すことが第一である。と第2章を書き始めたのだが、どうにも身体がだるく、筆が進まない。どうやら風邪のバイ菌が身体中を駆け巡っているようで、思うように筆が進まない。おまけに働楽の入社に向けて情熱を傾けている応募者が日曜日にも会社に詰めかけ、やれリハーサルをやるので聞いて欲しいとか、発表時の言い回しはこれでいいか見て欲しいとか、彼らにとっては一生の一大事なので、無下にお断りする訳にもいかずで、結局体を休める間もなく、日曜日も過ぎていった次第である。と言うことで、第2章「風邪を引く」はまたの機会に取っておくことにした。悪しからずご了承願いたい。
2014年11月2日(日)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫