結婚式に招かれて-その1

 10月28日の満月はダディンジュの祭。お釈迦様が満月の明かりを頼りに天上から舞い降りてくる年に一度のめでたい日で、善男善女がこぞってパゴダを訪れロウソクを灯してお釈迦様をお迎えし、家族の平安を祈る習わしである。この日は7月1日から始まった雨安居の明けの日でもある。僧侶達が外出を控え、僧院でひたすら修業に励む雨安居の期間は、在家の人々も華やかな行事を自粛し慎ましい生活を過ごす。
そしてダディンジュ月の満月の日を期に、待ってましたとばかりにめでたい行事を再開するのだ。結婚式はその典型的な行事であり、至る所で結婚式が開かれている。ヤンゴンでの生活を始めて1年余りが過ぎたばかりの私のもとにも、3組のカップルが満面の笑みを浮かべながら、立派な結婚招待状を携えて訪れてきた。

<招待状>

<式次第>

 勿論祝福の言葉、招待頂いたことへの感謝の言葉を述べつつ、二つ返事で出席する旨を伝える。乏しい懐具合の老人にとって結婚式への参加は、少なからぬ負担になるが、それ以上にカップルの幸せな気持ちのおすそ分けを貰うことのメリットの方が大きいと感じ、財布の紐もついつい緩んでしまう。
とは言え、長きに渡り結婚式から遠ざかっていたし、なによりミャンマーでの結婚式への参加は初めての経験で、右も左も判らない。おまけに頂いた招待状を開いてみても、宛名以外は全て呪文のようなミャンマー語で書かれており、多少不安が頭をよぎる。まあ何とかなるだろうと腹をくくり、先ずはカップルに月並みな質問を投げかけてみる。「ところで、お二人は恋愛結婚なの?」すると、「ええ勿論です。日本では恋愛以外の結婚があるのですか?」と怪訝な顔をしたカップルから逆の質問が返ってくる。そこで、日本で盛んな婚活事情等について紹介すると、驚きの反応を示す。何しろお見合い制度のないミャンマーでは恋愛できないことと結婚できないこととは同じ意味であり、結婚式への招待は言わば人生の勝ち組になったことを示す勝利宣言のようなものらしい。
さて、1組目の式場は、5つ星ホテルのグランドボールルームで、招待客は600人だと言うから驚きだ。日本で600人もの招待客を呼ぶ結婚式が出来るのは有名タレントくらいだろう。

<祝儀袋>

<引き出物>

 挙式の開始が13:00とのことで、食事も摂らず30分程前には会場に到着し、玄関前に設えられた受付でお祝儀を渡すと、引き換えにケーキ1個分程の小さな記念品が渡された。後で判ったことだが、どうやらこれが引き出物に相当するもののようだ。
 祝儀袋は、何故だか航空郵便の封筒を使うことが決まりらしく、全員が例外なく同じ封筒を準備していた。勿論お金ではなく、贈り物の包を提供する招待客もいる。やがて受付には華やかにパッキングされた包の山が出来た。

<レセプションで両家のご両親がお出迎え1>

<レセプションで両家のご両親がお出迎え2>

 ロビーの正面には両家のご両親が横一列になって招待客を招き入れ、式場に誘導する段取りだ。受付の光景を飽かず眺めている内に、ふと気付いたら、時は挙式の開始時間を30分以上も過ぎていたが、三々五々訪れる招待客の流れは止まらない。そのため2人の両親はいつまでもロビーに整列して待っている状況であった。
 結局40分程遅れて式が始まった。かわいい子供を先頭にカップルの行進が会場に入ってきた。600人を収容する大広間の中央をゆったりと進んだカップル及び介添えとおぼしき人達が正面の舞台に立って、招待客に一礼した。

新郎新婦の入場行進
新郎新婦の2人
披露宴会場入場

いよいよ式の始まりである。先ず司会者から呼ばれた、2組の来賓夫妻が舞台に上がり、2人と並んで記念撮影をした。その内の1組はカップルが勤務している会社の社長夫妻であると紹介された。

<来賓代表が舞台に上がり、新郎新婦と記念撮影>

 記念撮影が終わり、全員が席に着くと、ティーパーティーが始まった。司会者が「それではどうぞゆっくりご歓談下さい。」とでも言ったに違いない。600人が一斉にナイフとフォークを持ち上げて、予めテーブルに配繕されていたパイとケーキを食べ、コーヒーを飲み始めた。フルコースの食事ではなく、お茶菓子を振る舞うティーパーティーであると合点した。そしてケーキを食べている間に、カップルが挨拶をしながら各テーブルを回る段取りだ。ケーキを食べ終わるとアイスクリームが配られた。アイスクリームを食べ、2杯目のコーヒーを飲み終えた頃、時計は14:20を指していた。

<振る舞われたパイとケーキ>

<各テーブルを巡る新郎新婦>

カップルがそのまま会場の外に出て、両親と並んで立った。どうやら式は終了し、招待客のお帰りを見送る時間になったようだ。

招待客を見送る新郎新婦会場外で並ぶ招待客達

 大半の招待客が帰っていった後、カップルは再び会場の舞台に戻った。そしてごく内輪の人達がグループ毎に入れ替わりで舞台に上がり、カップルを囲んで記念撮影を行った。最初は花婿の親族一同、次には花嫁の親族一同、花婿の友人一同・・・・と言った具合である。その頃には、ホテルのスタッフがテーブルの片付けのために忙しく動き回った。どうやら、次の挙式の準備を始め出したようである。

記念撮影の様子1記念撮影の様子2

 やがてカップルと両親が会場の出口に並び最後の来賓をお見送りする時間である。彼らは別れを惜しむよういつまでも会場に残り、2人が花とレースで飾られた立派な車でホテルを後にするまで見送った。贈り物を一杯詰め込んだトラックが2人の乗った車の後を追った。

<新郎新婦が乗る車>

<贈り物が満載されたトラック>

 600人もの来賓が集う豪華な挙式ではあったが、内容的には日本の挙式と比べると、極めて淡白なものであった。来賓の挨拶も、エンターテインメントもなく、ケーキ入刀といった2人の共同作業の儀式も、最後を飾る両親からの挨拶も一切なく、全てが無言のままの純粋なお披露目式であった。
尤も、開始時間が小一時間遅く始まり、終了は30分程早く切り上げなければならないとなると、実質的な挙式に費やされる時間は40分程しかなく、お茶を飲む程度のわずかな時間に新郎新婦を紹介しなければならない訳で、余計なプログラムを差し挟む時間的余裕は生まれて来なかったのだろうと思われた。
それでも2人は終始幸せ一杯の様子であったので、それはそれでよかったのかもしれない。お二人の末永き幸せと御両家の繁栄をお祈りしたい。


2015年11月18日(水)
MyanmarDRK Co., Ltd. Managing Director
宮崎 敦夫